Share

ターニングポイントの先に Page4

last update publish date: 2026-09-30 09:00:10

 ――その日の夜、お腹いっぱいになってマンションに帰り着いた私は、夕方の稜也くんとのやり取りを思い出していた。

 あれはどう考えても彼の本音じゃない。「もしも」の話だから、あんな冷たい正論を言ったに過ぎないのではないか。そう思ったのだ。彼も本心では、私に会社を去ってほしくないと思っているに違いない。そう思いたかった。

 でも……、これが「もしも」の話ではなく本当のことだと知っても、彼はきっと同じように言うんじゃないか。そんな気もしている。

「私はただ、彼が背中を押してくれるなら引き抜きの話、受けてもいいと思ってるだけなのになぁ……」

 彼に引き留めてほしいと願いながらも、そう思ってしまうのは矛盾していると自分でも分かっているけれど。だからこそ私は悩

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 恋の才能 ~年下御曹司はバリキャリ女の私にご執心!?~   ターニングポイントの先に Page5

    「――このままじゃ、私ホントにこの会社からいなくなっちゃうよ? それでもいいのね? あなたは淋しくないんだ?」「ちょっと茜さん、落ち着きましょ? 冷静に、ね?」「これが冷静でいられるかぁ!」 稜也くんが私を落ち着かせようと肩をつかんできたけれど、頭に血が昇っている私はその手を乱暴に振り払った。そのままポロポロと泣き出し、言いたくないことまで言ってしまう。「私……、稜也くんのそういうところがイヤなの! どうして自分の恋人が会社からいなくなるかもしれないのに、そんなに落ち着いていられるの? 信じられない!」「だから落ち着きましょって。別に茜さんがこの会社を去ってしまったからって、僕たちの関係が終わるわけじゃないでしょう? ……とにかく、お互い一度冷静になって、自分の心と向き合った方がいいと思います。僕も今はちょっと頭が混乱しているので……」 彼が混乱しているなんて信じられない。だって、彼はこんなに冷静で……。でも、今の言葉からは普段の彼の冷たさは感じられなかった。「…………うん、分かった。私も言い過ぎたかもね。ごめん。それじゃ、明日と明後日は顔を合わせない方がいいかな」 幸いにも今日は金曜日。週明けまでは出社してくることもないはずなので(管理職になったので、不測の事態が起きれば出社しないといけないかもしれないけれど)、デートの約束をしなければ稜也くんと会うこともない。冷静になるには、一度距離を置いた方がお互いのためにもい

  • 恋の才能 ~年下御曹司はバリキャリ女の私にご執心!?~   ターニングポイントの先に Page4

     ――その日の夜、お腹いっぱいになってマンションに帰り着いた私は、夕方の稜也くんとのやり取りを思い出していた。 あれはどう考えても彼の本音じゃない。「もしも」の話だから、あんな冷たい正論を言ったに過ぎないのではないか。そう思ったのだ。彼も本心では、私に会社を去ってほしくないと思っているに違いない。そう思いたかった。 でも……、これが「もしも」の話ではなく本当のことだと知っても、彼はきっと同じように言うんじゃないか。そんな気もしている。「私はただ、彼が背中を押してくれるなら引き抜きの話、受けてもいいと思ってるだけなのになぁ……」 彼に引き留めてほしいと願いながらも、そう思ってしまうのは矛盾していると自分でも分かっているけれど。だからこそ私は悩んでいるのだ。「ホントにもう、どうしよう……」 モヤモヤした気持ちのまま私は部屋着に着替えてシャワーを浴び、眠ろうとした。けれど結局一睡もできず、朝を迎えてしまった。   * * * *「――はい、ただいまメールを確認致しました。そちらに送付した資料に不備があったとか。 ……はい、大変申し訳ございませんでした。こちらの確認不足で、御社には多大なご迷惑をおかけ致しました。これから誠心誠意、対応させて頂きます。……では、失礼致します」 数日後の午前。オフィスで受話器を戻した私は大きなため息をついた。そしてこの件を担当している二人の部下をデスクに呼ぶ。「冴島くん、中田さん。ちょっと来てくれる?」

  • 恋の才能 ~年下御曹司はバリキャリ女の私にご執心!?~   ターニングポイントの先に Page3

     ――それからの私はというと、普段ならしないミスを連発してはチーフである稜也くんから「本当に大丈夫なんですか?」と心配される始末。本当に情けない上司だ、私って。 それでもどうにか定時には仕事を終え、退勤後は真優と一緒に夕飯を食べに行くという約束があるので(専務との外出から早く戻って来られたらしい)、帰り支度を始める。 気がついたら堀内くんや中田さんなど他のメンバーは早々に帰ってしまって、稜也くんと二人だけが残された。……う~ん、気まずい。「――あの、茜さん。今なら僕たち以外に誰もいませんから、あえてお訊きしますけど。本当に悩んでいることは何もないんですね?」「……だからないってば。どうしてそう思うの?」「昼休みを終えて戻ってきてからずっと、茜さん、様子がおかしかったので……。体調は悪くなさそうだったので、だとしたら何か悩んでいるんじゃないかと思って」 私は肯定も否定もしない。引き抜きの話を、まだ彼にするわけにはいかないと思っているから。だからその代わりに、彼にこんな質問をしてみる。「……ねえ稜也くん、私がもしこの会社からいなくなったら……って考えたことある?」 私って何てズルい女なんだろう。こんな、彼の気持ちを試すようなことを訊くなんて。「いなくなる、って……。茜さん、この会社を辞めるつもりなんですか?」「あ……、ううん。そうじゃなくて、もし他社からの引き抜きの話があったとしたら……。稜也くんはどう思う?」 彼はどう答えるのだ

  • 恋の才能 ~年下御曹司はバリキャリ女の私にご執心!?~   ターニングポイントの先に Page2

    「――えーと、それは……つまり、私をヘッドハンティングしたい、ということでしょうか?」「ええ。そのような解釈で合っています。わたしは今日、あなたを弊社に呼びたいと思い、こうして足を運んで来たんです。……アポなしで参りましたのは申し訳なく思っておりますが」 私が混乱する頭で必死に捻りだした結論に、南沢副社長は大きく頷かれた。私を引き抜きに……? どうしよう? 急にそんなことを言われても困る。どう返事をすればいいのだろう?「はぁ……、そうですか」「弊社へ謝罪に来られた際の落ち着いた対応、その誠意に満ちた態度に兄が大変感服致しておりましてね。『彼女にはぜひとも、わが社でその能力を遺憾なく発揮してもらいたい』と申しておりまして。もし来て下さるようなら、それ相応の待遇を用意しているから――と。年収は千二百万円で、あなたのお望みのポストも用意する、と申しております」「年収、千二百万……」 思わず私の心がグラついた。そんな自分に内心愕然となる。 この会社での、今の私の年収は一千万。月収は六十万、プラスボーナス支給が年に二回でその金額である。それが年収千二百万ということは、少なくとも月収だけでも七十万~八十万になり、それプラスボーナスも出るということだ。収入の面だけ見れば、この話はすごく魅力的ではある。 それに、東亜商事は私を必要な人材だと言ってくれ

  • 恋の才能 ~年下御曹司はバリキャリ女の私にご執心!?~   ターニングポイントの先に Page1

    ――それから数ヶ月が過ぎ、季節はすっかり秋だ。 この夏は室長としての仕事に追われながら、稜也くんとの結婚準備に婚前旅行にと忙しかった。 両家顔合わせとして赤坂のレストランで食事会をした時には、両家の両親と姉夫婦がすっかり意気投合してしまい、当人同士である私と稜也くんそっちのけで盛り上がるシーンもあった。……でもまぁ、これはこれでいいのかもしれない。仲違いされてしまうよりは……。 婚前旅行は夏季休暇を利用して、二人で兵庫県の神戸へ二泊三日で行った。神戸は何と彼のお母さま、彩華さまの故郷なのだそう。その割には彩華さまって関西弁を話されないけれど、神戸の人ってそんなに関西弁を使わないのかな……? 二人で街のあちこちを観光したり、美味しいものを食べたり、可愛いもの好きな私の意見を尊重してくれてアートな水族館や動物王国にも行った。 楽しかった三日間はあっという間に過ぎていった。 「今度は新婚旅行で来たいね」 帰り際には、どちらからともなくそう言っていたくらいだ。 仕事の面では、今までとだいぶ変わったように思う。企画運営室内のあれこれに目を配るだけでなく、部署を代表して社内全体の大きな会議にも出なければならない。あれだけ問題山積みでズボラだった前任の遠藤元室長も、これだけには毎回せっせと顔を出していたらしい。 室長としての仕事は忙しいながらも充実していて、私は昇進してよかった。この会社に骨をうずめるつもりでずっと働いていたいな……と思っていたのだけれど。ある日を境に、私は重要な岐路に立たされることとなった。 * * * * 「――茜さん、ロビーにお客さまがお見えですよ」 十月のある日、珍しく真優と二人で外でラ

  • 恋の才能 ~年下御曹司はバリキャリ女の私にご執心!?~   上に立つ者の資格 Page6

     ――翌週、人事部から正式に辞令が下りて、私は遠藤氏の後任として企画運営室の室長に就任。そして稜也くんも同時にチーフに昇格した。「頼りない室長かもしれませんが、私はみなさんに寄り添えるような室長になっていきたいと思っています。仕事で分からないことや、仕事以外でも何か困っていることがあれば、何でも私に言って下さい。できる限り、解決できるよう私なりにみなさんの力になりますから。これからよろしくお願いします」「よろしくお願いします、尾崎室長」 部下を代表して稜也くんが私に頭を下げると、みなさんは温かい拍手で歓迎してくれた。「――では尾崎室長、さっそくですがこの企画書のチェックをお願いできますか? 中田から提出されたもので、僕のチェックはもう済んでいますので」「うん、分かったわ。ありがとう」 私は彼から手渡されたUSBメモリーを受け取り、パソコンでファイルを開いてチェックを始めた。   * * * *「――茜、室長就任おめでとう!」 お昼休みの社員食堂で、真優が私にお祝いの言葉を言ってくれた。乾杯しようと、冷たい麦茶のグラスを掲げられる。 今日のメニューは豪勢に、二人とも主菜がビーフステーキの日替わりランチだ。それでもワンコイン、五百円である。「ありがと、真優」 私も微笑んでグラスを合わせる。今日のランチは親友と二人、ささやかな祝賀会だ。「そういえば、彼氏の冴島くんもチーフに昇格したんだよね?」「うん、そうなのよ。どうも、社長と彩華さまが裏から手を回したらしい

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status